そして私が愛した馬鹿は貴方だわ

そして私が愛した馬鹿は貴方だわ





突然の事に、私は自分の耳を疑った。
だけど前にいる彼が困った顔をするもんだから、やっぱりそれは本当の事だ。
ガイは悲しい顔をして、私の前にいた。

「すまない、

謝るぐらいならそんな悲しい事言わないで。
震える足を叱咤し、きっと彼を見据えた。

「嫌よ。そんな悲しい事、私は認めないわ」
、認めてくれ。俺は君を巻き込みたくない」
「それなら既に巻き込まれているの。私は、もう赤の他人じゃないの」

そうよ。あの時、貴方がファブレ公爵様のお屋敷に来た時から赤の他人じゃなくなった。
少なくとも、私は貴方の知人でいたい。欲を言えば、お友達でいたいの。
だけど彼はやはり駄目だ、と私に言い渡した。

「今回は絶対に君には出来ない事だ」
「勝手に決め付けないで。出来ない事なら今回はどんな事なのか教えて」
「それは…」
「ならいいじゃない!言えないのでしょう!?だったら私にも出来るはずよ!」

今の私は醜い。本当は、こんな事言うつもりじゃないの。
だけどあまりにも貴方が悲しそうに言うもんだから、だから私は聞きたいだけ。
なのに貴方はだんまり。

「ガイ…」
「君には凄く感謝しているんだ。うじうじしていたルークを支えてくれたのは、間違いなく君だ」

一ヶ月前。ルーク様…ルークは自分をレプリカだと知り、そして師であるヴァン謡将を倒した。
だけれど周りの目はレプリカだというルークを白い目で見ていた。
気味悪がり、ルークから遠ざかる屋敷の人達。中には耐え切れず止めた子までいたわ。

けれど私はずっとルークのそばから離れなかった。

マルクトの貴族だからマルクトに行ったガイの分だけ、私はずっとルークを支え続けた。
シュザンヌ様が旅をしたみんなの元を訪れてはという案でも、私はついて来た。
ルークのそばから離れない。それもあった。

だけど一番の理由がガイに会いたかったから。だからついて来た。

まったく、自分でも呆れるほどの我が侭で身勝手な奴。
ルークはそんな私にありがとう、と無理をした笑顔で言ってくれて、胸を締め付けられた。
ティア、アニスと会った後、ようやくガイと再会出来た。

嬉しかった。涙が出たほど、私は嬉しかったの。

だけど貴方は、残酷な事を言っているの。

ねぇ、気付いてる?

「だけど…だけど私は貴方と一緒にいたいの!」
「…君は言っていたね。もうこれ以上人を殺めたくないと」

言った。旅の途中で、ルークと同じく人を殺める事に慣れてないから、もう沢山だった。
でもそれでも人を殺めていったのは自分で決めた事。だから震える手をずっと叱咤していってた。
だけどガイはそれに気付いていたのかもしれない。

「今回は、前の旅よりももっと辛い事がいっぱいある」
「だから!?だから何!私はもう殺めた!殺めてしまった!!手が赤くなるほど!」
「俺は君を危険な目に遭わせたくないんだ!!」

ガイがそう叫んだ事により、私はようやく我を取り戻した。
彼はぎゅっと強く自分の拳を握っていた。

「もう…大切な人が傷つくのは…嫌なんだ」

うん。ガイの気持ちもよく分かるわ。
でもね…

「でもね、ガイ。それを言うなら私だってそうよ」
「…?」
「私も大切な人が傷つくのは嫌よ。それなら自分が傷つく方がいいわ」
!」
「でもね、そうすると悲しむのは誰?」

私が言おうとする事にガイは気付いたのか、はっと私を見やった。

「…分かって、ガイ。私は本気よ」
「………」
「私、自分の気持ちを伝えてないのに、勝手について来るなって酷いわ」
「す、すまない…。だけど…」
「私はただのメイドじゃないの。前の旅で気付いたでしょう?」

ふふ、と笑ってあげると、彼は少し微笑んでくれた。

「…分かった。君が本気なら、俺はもう諦めるよ」
「うん。そうして」
「でも一つだけ条件がある」
「うん?なあに?」

そう言うと、彼は真剣な眼差しで私を見たの。
吸い込まれそうな蒼い瞳に、私の姿をしっかりと映していたわ。

「絶対に、俺のそばから離れないでほしい」
「ふふっ。ええ。絶対に。離れてくれって言われたって絶対について行くわ」

ガイは、はは。といつもの温かい微笑みを私に向けてくれた。


「ん?」
「愛してる。愛しているんだ、
「ふふ。ええ。私もよ。私も愛しているわ」

彼はその後、ずっと私に愛していると言ってくれた。


それがまるで自分が死ぬ時を知っているようで。


だけどそんな私もいつかこの戦いで死ぬ事を予想しているみたいに。


ずっと愛していると繰り返した。



馬鹿だね、私達。



だけどそんな馬鹿な私を愛したのは貴方よ。
Witten by Yukino Enka.

-Powered by HTML DWARF-