With me

紅い。観月には想像もつかないほど、白いシャツを染めて行く紅。
本当ならこれでいいはずなのに、何故か愛しい君がいる。
なんで泣いているのか分からない。止めて。そんな奴に優しくなんかしないで。
パン、と乾いた音。次第に熱を持ち始める左頬に、そこで初めて叩かれた事に気付く。
少し視線をずらせば、大きな雫が沢山その白くふっくらとした頬を伝って零れる愛しい君がいた。







ああ、どうしてこんな事になったのだろうか。







「痛いなぁ」
「痛い?ふざけないで!!だったらはじめはどうなのよ!!!」

はじめ?ああ、観月の名前だったっけ?ずっと観月って呼んでるから知らなかったな。
君はまた俺の右頬を叩く。可愛らしい君の手が、赤くなっていく。

「あんたが…あんたがはじめを殺したのよ!!!」
「殺しただなんて。観月は疲れて眠っちゃっただけ」

いつも愛しい君の周りにまとわり付いてるから、ちょっと眠ってもらっただけ。
ずっと君だけしか見ていなかったはずなのに、いつも視界の端に映るのは観月。
君と二人きりでいたいのに、いつも観月が邪魔をする。
だから今回は眠ってもらっただけなんだ。

「だったらなんではじめから血が出てるの!?どうしてはじめは動かないの!?」
「…ねぇ。はいつから観月の事を名前で呼んでいるの?」

そうだ。気になっていた。どうして君ははじめ、だなんて言っているのか。
俺が知っている君はいつも観月の事を呼び捨てにして、いつも会う度にケンカして。
その愚痴を言う為に俺のところへ来る君は、どこへ行ったの?

「はぐらかさないで!!」
「答えてよ。
「ッ!?な、なによ!付き合っているもの!!恋人の名前を言って何が悪いの!?」

君と観月が付き合ってる?何を馬鹿な話をしているの?
君は俺が必要。俺には君が必要。昔からそういう仲だっただろ?

「それに!!淳は賛成してくれたじゃない!!お似合いだって、言ってくれたじゃない!!」

そうでもしないと君が君でいられなくなってしまうからだよ。
なのに君は気付いてくれない。俺がこんなにも君の為に自分の気持ちを殺してきたのにね。

「淳!!はじめを返して!!!はじめを返してよぉ!!!」

ああ、泣かないで。君の涙は苦手だ。君の泣き顔は見たくない。


「嫌!!呼ばないで!!来ないでぇ!!」
「大丈夫だよ、。すぐに観月の事なんて忘れてしまうから」
「嫌ぁぁ!!!!」

パン、と俺の手を跳ね除けて「愛しい彼」の元へ駆け寄る君。
うつ伏せで寝ている観月の手をぎゅっと握って、わんわんと泣く君が愛しい。
その姿に、思わず足を止めてしまった。まるで昔の君に戻ったみたいだ。



そうだ。初めて会った時もこんな感じだった。
俺がまだ亮と六角にいた時、こうして他人が近寄るのを拒絶したよね。
でも俺達と出会ってから、君は少しずつ変化していった。
会話が出来るようになって、笑顔が増えて、放課後色んな所へ遊びに行ったね。
この頃から君の事、好きだったんだよ。多分亮よりもずっとずっと。
なのに君はある日忽然と俺達の前から消した。
俺、待ったんだよ。いつかひょっこりと俺の前に現れる日を待ち焦がれたんだ。
それから数年の時が経ち、俺がここへ来た時に君はすでにここにいた。
あの時の嬉しさは今でも覚えている。やっと会えた。そう思っていた。
けれど君は俺じゃなく、観月を見ていた。
どうして俺じゃないの?どうして観月なの?観月のどこがいいの?観月のなにがいいの?






ああ、どうしてこんな事になったのか。






俺はただ君が悪夢から目覚めさしてあげようと思ったんだ。
だからその元凶である観月に眠ってもらった。
たかが包丁でも、人一人は眠らせる事は出来る。観月には一発で効いたよ。
ああ、それを見てしまったからか。だから君はまだ悪夢に溺れているんだ。

だったら…






俺の悪夢を見てよ。







未だに「愛しい人」を抱きかかえて泣く君の元へ足を運ぶ。
気付かないのか、君は顔を上げずにずっと、起きる事のない観月を想って泣いている。
愛しく君の名前を呼ぶと、君ははっと顔を上げてそしてキッと俺を睨んだ。




ああ、その表情すらも愛しい。




「ねぇ、。俺を見て」
「な、何…」
「俺はずっとを見てきた。だからも俺を見て」
「いや…こないで…」

後ずさりする君を捕まえて、くい、と顔を上に向かせた。
俺を瞳があった瞬間、君の顔は恐怖でいっぱいだった。










「いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」














血の匂いが漂っている。邪魔者は向こうで倒れ、君は俺の腕の中で眠っている。
胸にある紅い液体と白のワンピースがよく映えて美しい。



「…っは」



もうこれで俺と君とを邪魔する奴はいなくなった。
ねぇ。君は今幸せかい?俺はとっても幸せだよ。
だって愛しい君が俺の腕の中にいるんだよ?夢見たいで幸せだ。



「…はは」



君って冷たいね。もしかして冷えちゃったかな?
まだ初夏だもんね。そんな格好じゃ冷えちゃうのも当たり前か。



「はははっ」



そう言えば何で君は赤い液体で汚れてるの?俺も一緒だ。
部屋もいっぱいに赤い液体でいっぱいだし、何だか向こうで転がっている人形にもついてる。
ああ、トマトジュースを零しちゃったんだね。まったく、君はおっちょこちょいなんだから。



「はははは!!あは、あはははッ!!」



あーあ。髪の毛までついてるよ。


一緒にお風呂に入ろうね。





With me
Witten by Yukino Enka.

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