観月さんの憂鬱日

「はい、淳さん!あ〜ん」
「あーん」




ああ、うざい…ッ!!!






観月さんの憂鬱日







先週から梅雨に入り、雨の所為で練習が出来なくてイライラしているというのに。
目の前で繰り広げられる出来事に、手に持っていた水性マジックペンが悲鳴を上げた。
隣に座っていた裕太が顔を青くさせる。

「あ、。調理法変えた?」
「気付きました?そうなんです!ちょっとお醤油を入れてみたんです」
「やっぱり。美味しいよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」

肩をふるふると震わせている観月を知ってか知らずか、二人の勢いは止まらない。
そんな観月を横目に、野村は恐る恐る声をかけた。

「…ちゃん、木更津」
「はい?野村先輩」
「ん?何、野村」

よし、行け野村!
目つきを変えて野村を睨み付けた観月に臆した野村は、金田の後ろに隠れてしまった。
盾にされた金田は、慌てて野村を引っ張り出そうと苦戦する。
それを見た観月は、大きく舌打ちをする。
びくっと裕太の肩が大きく跳ね上がったが、観月が知った事ではなかった。

「…君達。お昼はもう済んだはずでしょう?」

時間帯は3時を回った辺りだ。お昼はとっくに過ぎている時間だった。
だが目の前では優雅に金平を頬張る木更津とその彼女でマネージャーのの姿がある。
もしかしたらこれは白昼夢かもれない、と一瞬考えるがすぐに消え去る。
ほのかに香る金平の匂いが、現実だと証明していた。

「あ、これは午後の授業の家庭科で作ったやつです」
「そうだよ。それにお昼なら一緒に食べたでしょ」

そうだ。確かにお昼はこのバカップルを前に黙々と昼食を取った。
とは言っても向こうが勝手に押しかけてきただけなのだが、とにかく一緒だった。
その時もこうしてバカップルぶりを発揮していたのを、今でも覚えている。
それにが手に持っている金平は、昼食の時にはなかったものだ。
更に言うなら、昨日観月のクラスの女子が作った金平との金平は同じだった。
しかし、と観月は青筋を立てながら低く唸った。

「だからって部室で食べるのはよしなさい!!!」
「だって他に食べる場所ないんです…」
「そもそも!!今は部活中のはずですよ!!誰が休憩してもいいと言ったんです!!」
「あ、それ俺」
「はい。淳さんがもう休憩にしようって…」
「木更津!!!!」
「そんなに怒んなくてもいいじゃん。観月のケチ」

外は生憎の雨だが、ミーティングは出来るので部室でミーティングの途中だった。
そろそろオーダーも決めておかなければならなかったので、それも兼ねてのミーティングだった。
今頃はもうとっくにミーティングも終わっていて、何もする事もなく部室にいるはずだった。
だが今はどうだ。単なるバカップルがいちゃいちゃしているだけではないか!
ついにマジックペンが折れた。一緒に観月の血管も切れる。

「いい加減にしなさい!!!木更津!!!君は明日からメニュー10倍です!!!」
「げっ」
さん!!!そんな馬鹿に餌を与えないで下さい!!!今後飲食禁止です!!」
「え、餌…?」

名指された二人は、刹那ぱちくりと瞬かせ、しかしお互い顔を見合わせた後、

「でもがいてくれるなら俺はいくらでもやるよ」
「私も淳さんの為なら頑張って淳さんにご飯食べられないようにします!」

遂には互いの手を取り合った始末となった。
逆効果だ。頭を抱えて泣きそうになった観月の肩に、赤澤の手が乗った。




「あのカップルにはを言っても無だ」
「だったら僕が退部でもしたらいいんですね?」「何でそうなるんすか!?」
Witten by Yukino Enka.

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