僕も好きでした。

僕も好きでした。

カラン、と氷が音を立てて崩れたように、今の俺も心の中で崩れたような気がした。気がしただけで、多分鏡を見ると普段の俺なんだろうけれど、それでも心の中の何とも言えない苦しさを感じていた。前に座っている彼女はそれはそれは泣きそうな顔で俺と同じアイスコーヒーを片手に、だけど手に持っているだけで飲もうとはしない。カラン、と今度は彼女のアイスコーヒーから悲鳴を上げた氷は、それだけで終わった。

「淳は、どう思ってるの?」

「それでが楽になれるのなら、俺はいいよ」

「…こんな時でもあたしに優しいのね」

本当だね。それほど自分でも呆れるほどの格好付けなんだよ。彼女はやっぱり泣きそうな顔で静かにそうね、と呟いて手元の口もつけてないアイスコーヒーに視線を落とした。運ばれてきた時よりも水かさを増したそれは、少し動かしたら零れ落ちそうなほど溢れていた。

「ずるい女だって罵ってくれてもいいわ。あたしは何も言えないもの」

「そんな事ないよ」

だって君はいつまで経っても綺麗な君じゃないか。そう言おうとして、だけど口を閉じてしまった。だってあまりにも君が綺麗に泣くもんだから、愛しいと感じてしまって。彼女は言った。

「…ねぇ、淳。何で言ってくれないの?」

「それは…」

「言ってよ。最低だって。こんな女なんかいらないって。お前の顔なんか見たくないって…ッ」

「…

彼女は、静かに泣いていた。



















「でも好きなのよ!!!このプチプチを潰すのが!!!」



















そう言った彼女の手には、ほとんど潰された形跡があるそれが握られていた。



「これを潰すと気持ちがいいのよ!!そう思うでしょ、淳も!!!」


「………うん。気持ちいいよね」



本当は俺も好きだけれど、彼女の笑顔の為に何も言わないでいた。
Witten by Yukino Enka.

-Powered by HTML DWARF-