「なに考えてるの、淳兄さん」
「なにって?」
「この間。デートの邪魔したでしょ」
「邪魔したなんて」
心外だなぁ。そんな言い方が実に棒読みで、は大きく目を吊り上げた。
「いい加減にして」
「だってあの時はたまたまそこにいただけなんだけど」
「家と正反対のところで、なにをしていたっていうの」
「散歩」
「嘘」
「ほんとだって」
「淳兄さんはよく嘘をつくもの」
亮兄さんよりもね、と言われて、淳は肩をすくめた。
「ひどいな〜。久しぶりに実家に帰ってきて、早々に妹にいじめられてるよ」
「早々に妹のデートを邪魔した兄さんよりはましよ」
「ねえ、あいつとはどこまでいったわけ?」
「あ、淳兄さん!」
「いいじゃん。やっぱ兄としては心配なんだよ」
「…そう思ってないくせに」
「いいかい、。一つ勘違いしてる」
「なに?」
「どこの世界でも、兄妹を想っていない奴はいないんだよ」
「なら亮兄さんの事も?」
「まあ元々俺達は双子だから、亮の事は心配もなにもないけど」
「じゃあやっぱり嘘吐きじゃない」
「だけど、やっぱり少し歳の離れた妹となると、心配で心配でいてもたってもいられない」
本当なんだろうか、と少し疑心暗鬼してしまうが、どうやらそれは嘘ではないらしいとは感じた。
彼が真実を語る時は、その切れの長い目を少し細める癖がある。
「本当は、は誰にも渡したくないんだ。俺の可愛い妹は、俺が幸せにするって決めてたから」
「……」
「邪魔した事は謝るよ。けど悔しかったんだ。どこの奴かも知らない奴が、を幸せにさせてた事」
「兄さん…」
「けどが幸せなら、俺はそれでいい。が本当に幸せなら、俺は心から祝福する」
「…ええ、幸せよ」
「そう。ならいいんだ。ただ、やっぱり心配なんだ。同じ兄としては。そこは判って」
「……判ったわ。ごめんなさい」
「うん。で、あいつとはどこまでいった?」
「…結局その話に戻るのね」
「判ってくれたんじゃなかったの?」
「……ひどい、淳兄さん」
「うん、俺もそう思う」
本当に喰えない兄だ。ついには大きな溜息を出した。
「…別に。彼とはそこまで長い付き合いではないわ」
「ふ〜ん」
「けれど…そうね。彼は少し鈍感なところが多いわ」
「へ〜」
「自分の興味のあるものには敏感なのに、女の子の気持ちには全然気付かないもの」
「ほ〜」
「だけどね、ふと気が付くと彼はいつも私の隣にいてくれるの」
「……」
「理由を聞いたら、私すぐに泣くから淋しくないようにいるんだって…ふふっ」
「………」
「まったく。普段は鈍感な癖にこういう時だけは鋭いんだから……兄さん?」
「………やっぱり祝福出来ないや。今からそいつの所に殴りこみに行ってくる」
「に、兄さん!!」
兄は心配性です。
(兄の気持ちを聞けて嬉しかったのは秘密です。)