もう一度、

 出会いはいつも唐突だ。
 仕事で忙しい時期も過ぎて、ふと思い出してしまう恋人だった彼女を、偶然駅のホームで会ってしまった。

「はじめ、だよね」
「…僕以外に誰がいるんです?」
「そうだよね」

 そう言って笑う彼女は、昔の記憶とは随分と懸け離れていて、僕は戸惑うばかりだった。
 薄く施された化粧は、ごちゃごちゃとしたものを嫌う彼女の性格を忠実に表していて、同時に彼女の美しさも際立たせていた。

「…随分とかっこよくなってる」
「それはどうも。貴方だって、随分と美しくなってますよ」
「はは。はじめが言うと嫌味にしか聞こえないなぁ」

 本当の事を言ったまでだ。
 けれどそう思われていても仕方がない。あの頃の僕は、随分と捻くれていた奴だから。
 はもう一度「ふふっ」と微笑むと、それまで階段にいる僕に近寄ってきた。

「仕事、どう?」
「お陰様で順調ですよ。はどうなんです?」
「そうだね、そこそこ…かな」

 ぴたり。彼女の足がほんの1メートル先で止まった。
 それが今の僕達の距離だと感じて、なんだか居た堪れなくなってくる。

「まさかここで会うとは思わなかった」
「僕もです」
「流石のデータもはずれましたか」
「…もうデータは取ってませんよ」

 少なくとも、大学に行きだしてからはもう取っていない。取る必要がなくなったからだ。
 全国を目指した仲間達も、もうテニスから離れたのだから。
 は少し淋しげに「そう…」と微笑む。

「相変わらず赤澤君とは連絡取ってるの?」
「相変わらずとは随分な言い方ですね」
「だって仲いいじゃない」
「止めてください。あんな無神経な奴と一緒なんて」

 そう言っても、最後まで一緒にいたのは赤澤だった気がする。
 学部は違えども、大学まで同じだったのだ。赤澤とは。

「裕太君は今どうしてるの?」
「聞いた話だと、お兄さんと同じ会社に就職しているらしいですが…」
「ふふっ。裕太君もお兄さん想いなんだね」
「ええ、昔からですよ。あれは」
「木更津君は?」
「彼は千葉に帰ったらしいですが」
「そう。そう言えば柳沢君は病院で会ったの。彼、病院引き継ぐらしいね」
「そうらしいですね」

 昔の仲間達の話は、そこで途切れた。

「…はじめは、今元気?」
「元気じゃなければ、こうして会えていませんよ」
「っはは。それも…そっか…」

 そう言って俯いてしまった彼女を見るのが居た堪れなくなって、僕は視線を逸らした。
 たまたま僕が乗車する電車が来ていたけれど、彼女を放って乗る事は、なんとなく出来なかった。

「…ごめんなさい」

 ふいにが小さく呟くから、また視線を彼女に戻した。
 彼女は未だ、俯いたままだ。

「…謝ってすむ事じゃないのは…判ってる」
「……もう、いいんです。過ぎた事ですから…」
「だけど…っ!」
「…本当は、僕も知っていました」
「え…?」

 彼女が氷帝に転校する話は、耳にしていた。けれどその時は、あまり危機感を覚えていなかった。
 また会えると。向こうが会いに来れない時は、自分が会いに行けばいいのだと。そう思っていた。
 まさか連絡が取れなくなって、本当に会えなくなった時、目の前が真っ暗になったのを、今でも覚えている。

が必死に何かを堪えているのを…僕はただ黙って見ているだけでした」
「…はじめ」
「悪いのは…謝るのは僕の方です。……すみません」

 彼女が僕から離れて初めて、彼女の大きさを知った。
 彼女の存在が、こんなにも自分を支えていた事を、初めて知った。
 それに気付いた時には、もう彼女は僕のそばにはいなかった。

「…毎日が、退屈でした。貴方が僕のそばにいない日々が…つらかった」
「…私も、そうだった」
「……

 がゆるゆると僕を見上げる。
 涙で潤んだ瞳に、しっかりと僕を写してくれている。
 それがとても愛しく感じて、堪らず手に持っていた鞄を放り投げて彼女を抱きしめた。
 彼女の戸惑った声を聞いて、けれどしっかりと僕の背中に手を回した気配に不謹慎な笑みが零れた。

「今貴方と出会って、僕はあの頃の、楽しかったあの頃に戻れた気がします」
「……はじめ」
「…だから、もう二度と、貴方を手放したくない」

 ぎゅっと力を強めると、彼女もそれに答えてくれた。


「…好きです。誰よりも……
「うん。私も……好き」


 懐かしい。
 彼女のぬくもり。彼女の香り。
 どれも懐かしく感じた。


「まだ…有効期限は切れていませんよね?」
「ええ。まだ使えますよ」


 少し離れてお互い顔を見合わせ、ゆっくりと唇を重ねた。




「もう一度、付き合ってくれませんか?」



「…もちろん」





あの頃の時を埋めるかのように、もう一度唇を重ね合わせた。










もう一度、













観月さんの口調わからん!!
てか尻切れトンボ!! 訳わからん文章なった…
Witten by Yukino Enka.

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