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 漸く、裕太はこの邸の屋敷を覆う呪いの元凶、縄の巫女の怨霊と打ち勝った。
 粉々に砕けた御神鏡も、破片を集めたお陰で怨霊と化したは救われたのだ。
 同時に、それまでに囚われていた観月も、姿を現した。

「観月さん!!」

 ふらり、とよろける彼を、慌てて裕太が支える。
 未だ顔色が良くない観月は、しかし裕太に「大丈夫です」とだけ伝えて、背を向けるに向き合った。裕太もならって、彼女の背中を見つめた。
 は己の手をまじまじと驚愕した顔で見つめていた。
 そんな彼女の目の前に、幼い頃のが降り立つ。その目は、少しだけ嬉しそうに笑っていた。
 小さいはすっと静かに右を指し示し、言った。

『自分の役目を、思い出して』

 はっとしては弾かれたように顔を上げ、指し示された場所を見た。
 巨大な鉄鋼の扉が、大きく開かれていた。その先は、闇。

―――ああ、思い出した。

 どうしてこんな事を忘れていたのだろうか。今までの自分の行いを恥じて、上げていた顔を俯かせた。
 けれども、すぐには顔を上げる。
 その瞳には、大きな決意が秘められていた。
 ゆっくりと立ち上がり、一歩一歩、踏みしめながら開けてはならなかった場所へ向う。
 小さなは、それを見届けると、満足そうに無邪気に笑って、そっと消えて行った。きっとと一体化となったのだろう。元は彼女なのだから。
 が扉の前に立ち止まり、両手を扉にかざす。彼女の両手が光り、それに答えるように扉はゆっくりと閉まっていった。
 その様子を、二人は静かに見届けている。

「この門を閉じ続けるのが、私の役目…」

 扉が閉まった。はすっと目を伏せて、そう呟いた。
 それは二人に言ったのか、自分に言い聞かせたのか。二人には判らなかった。
 伏せていた目をゆっくりと開き、はゆっくりと扉を背にして振り返る。そして、少し上に持ち上げた右手を勢いよく振り下げた。
 すると扉の右側にあった巨大な岩にくくり付けられていた千切れた縄が、の右手首に勢いよく巻き付いた。
 左手も、右側にあった岩にくくり付けられた縄も、右手と同じように左手首に巻き付く。
 左右の手首を縛られたは、そのままゆっくりと上に浮上して行った。
 それはまるで、鉄鋼の扉を守るようだった。
 裕太はそれを固唾を呑んで見守る。観月は思わず一歩、前に踏み出した。
 目を細めて、は観月にそっと優しく微笑んだ。

「門は私が封じます。あなた達は、早く逃げて」
「貴方は…」
「こうしなければ、また「禍刻(まがとき)」が起きてしまいます」

 結局、彼女は助けられないのか。堪らず、観月は悲痛な顔をした。
 はそんな観月の顔を見て、思わず顔を背けてしまった。
 けれど、すぐに観月に微笑む。

「ありがとう。その想いだけで、もう……」

 直後、辺りの岩が崩れ落ちてくる。もうじき、ここは崩れるだろう。
 「観月さん!!」と裕太が急かした。

「早くここから出ないと…っ」
「裕太君…」

 裕太の名前を呼ぶ。けれど、彼は裕太に背を向けていた。

「やはり僕は、行かなくてはなりません」
「何を言ってんすか!!!」
「僕にしか出来ない事があるんです」

 そうして振り返った観月の瞳は、と同じく何かを決意した瞳だった。
 ひゅっと、誰かが息を詰まらせた音がした。それは裕太なのか、なのか、判らない。
 どう言っても何をしても、彼は自分の決めた事は決して変えようとはしない人物だと、裕太が一番判っているからだ。
 そうして二人はお互い何も言わずにただ黙って見合った。
 ぎゅっと、今度はが悲痛な顔をして目をきつく閉じた。
 次第に崩れ落ちてくるスピードが速くなっていく。
 ついに、裕太が左手を観月に差し出した。彼がその手を取ってくれる事を信じて。
 しかし彼はそれを取る事はなく、裕太に背を向けた。


 それが、裕太が見た彼の最後の姿だった。










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 裕太君。言い訳かもしれません。いや、もう言い訳にもならないでしょう。
 さんに導かれている間、「助けて」と、ずっと彼女の悲鳴が聞こえていたんです。
 縄の巫女として、門を封じる運命。愛する人と一緒にいたい気持ち。その狭間で、彼女は引き裂かれ、それが「禍刻(まがとき)」を招いてしまった。
 瘴気を浴びた彼女の霊は、自分と同じ苦しみを与えるだけの存在となってしまったんです。
 その瘴気から開放された今、彼女は縄の巫女としての役目を果たそうとしている。
 彼女の魂は未来永劫、たった一人で、この門を封じなければならないんです。
 途切れる事のないその苦しみが、少しでも軽くなるのなら。
 そして彼女の望みが叶えられるのなら。
 僕は彼女のそばで、少しでも力になりたいんです。


 観月さんに呼ばれたような気がして、オレは目が覚めた。
 いつの間にか、オレは屋敷の外にいた。恐らく、…さんが助けてくれたのだろうか。
 周りを見渡すが、やはり観月さんはいなかった。
 屋敷に目をやると、それまで屋敷に囚われていた魂達が月明かりに照らされて天へ還って行く。
 青白い光を放ちながら還って行く者達。


 裕太君。どうしてこの屋敷に導かれたのか、今なら判る気がするんです。
 僕はこの運命を、受け入れようと思います。
 今まで、ありがとう。


 月明かりと、魂達の光に包まれて、オレは静かに目を伏せる。
 右目に溜まった涙が、一雫、地面に落ちて吸い込まれた。













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パロ第三弾☆
今回はホラーゲームの零〜zero〜パロ。
零シリーズは怖いけど悲しいね!
ホラーゲームで泣いたのは初めてだよ!!
ヒロインはお化けね←待
配役としては

雛咲 深紅(ひなさき みく)(主人公)→裕太
雛咲 真冬(ひなさき まふゆ)(主人公の兄)→観月さん
霧絵(きりえ)(ラスボス)→ヒロイン

霧絵には本当に泣かされます。詳しくは零〜zero〜をやってくださいませ。
最初霧絵は友人で主人公がヒロインの予定だったんだけど、あまりにも報われないから…。
それにしても私個人の感想では、何種類かあるENDの中で、やっぱり一番はノーマルかな。
いくら兄さんがヘタレとか最低だとか罵られてもいいもの! だって金丸さ(ry
ちなみにサブキャラ設定としては、

高峰 準星(たかみね じゅんせい)(有名作家で真冬の恩人さん)→赤澤部長
平坂 巴(ひらさか ともえ)(高峰さんの付き人)→金田君
緒方 浩二(おがた こうじ)(高峰さんの担当編集者)→木更津君

だったりする←
Witten by Yukino Enka.

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