Du bist mein Lebenshalt.

「綺麗なものを見る事はいけないの?」

 そう言った彼女はあまりにも純粋で、あまりにも綺麗な表情だったから、次に言おうとした言葉を発せられずにいた事を覚えている。
 何を言おうとしたのか。覚えていないと言う事は、恐らくどうでもいい事だったのだろう。小首を傾げて僕を見上げるがした疑問に、僕は優しく微笑んだ。

「いいえ。いけない事ではありませんよ。どうしたのです?」
「あいつらが私におかしいって言うの」

 またか、と僕はにも聞こえるように大きな嘆息を付く。
 その話は僕にまで届いている。おかしいだの、嫌だの、狂っているだの。聞こえてくる言葉は、まるで恐怖で怯えている様だ。
 どうやらここにいる看護師達は、の綺麗なものが理解出来ないらしい。
 怯える事に、僕は理解出来ない。あれのどこに怯えるというのだ。あれほど美しく、にぴったりなものはないのに。

「そうでしたか」
「でも私、気にしてないよ。昨日だってね、看護師を呼んでも来なかったから、私が迎えに行ってあげたの」

 そしたらまた、綺麗なものが見れたの。
 そう嬉しげに微笑んだが可愛いので、彼女の頭を優しく撫でる。気持ちよさそうに目を細めて「ふふっ」と笑った。

「よかったですね」
「先生にも見せてあげたかったな」
「ええ、是非見ておきたかったです」
「じゃあ今見せてあげる!」
「残念ですが、、そろそろ診察の時間ですよ」
「そっか…」

 残念ですね。と、僕の真似をしてみせるは本当に残念そうで、小さな唇をつんと前に出して僕を見上げた。
 しかしまたの頭を撫でると、一変してへにゃりと嬉しげに笑うものだから、僕もまた微笑んでしまった。

「先生、私ね、病気が治らなくてもいいの」
「何故?」
「だって私が壊れていくの、すごく気持ちいいんだもの。人が壊れていく音、すごく気持ちいいんだもの」

 それとね、と僕の腰にぎゅっと腕を回して来るは、やはり「ふふ」と笑っていた。

「治ったら、綺麗なものが見れなくなるでしょ?」
「大丈夫ですよ。治っても見れますよ」

 僕がいますから。
 そう言えば、またより一層抱き付いて来た。

「そうだ。、診察の前に綺麗なものをあげましょう」
「ほんと!?」
「ええ。何がいいですか?」

 は僕に似ている。幼い頃から、彼女は「呪われた島ここ」にいる時の楽しみ方を知っている。呪われたこの離島での楽しみ方を。
 本土に戻れば、僕は殺人の罪で指名手配犯としてあのしつこい刑事に追いかけられる。
 どうやらこの島にまで追いかけてきたらしい。暇な奴だ。
 はそんな僕の唯一の安らぎ。僕の唯一の希望。

「ですがきちんと診察を受ける事です」
「え〜」
「『え〜』ではありません。守れないようじゃ、あげられませんね」

 の好きなものは、僕の好きなもの。の嫌いなものは、僕の嫌いなもの。
 僕の好きなものは、の好きなもの。僕の嫌いなものは、の嫌いなもの。
 が綺麗と呼んだものがの好きなものなら、それはつまり僕の好きなもの。
 看護師達の悲鳴。カナリアの首。苦痛で表情を歪める同世代の子の姿。ちぎれた腕。たくさん出てくる鮮血。鉄くさい錆びた血。
 どれもが美しいと、綺麗だと、そう楽しめるのなら、僕の楽しみにしよう。

「大体、診察は昨日だったじゃありませんか」
「だって先生がいなかったんだもん」

 「帰来迎あの日」から目を覚まさない姉さん。もう、姉さんの顔が、判らない。
 は、そんな姉さんと僕の、唯一の希望。
 姉さんが目を覚ましたら、こんな島を離れて、3人でどこか遠い所で一緒に住もう。

「先生の診察がいいもん」
「…そう言うと思って、今日は僕が診ますから」
「やった!」

 。純粋だからこそ残酷な子供。僕と姉さんの希望。

「さあ、。希望のものは?」
「じゃあ、先生の腕を、ちょうだい?」
「…ええ。それが綺麗なものであれば」

 ああ、
 愛おしい








「…み、観月…先生…」
「はい、なんでしょう」

 カルテを書いている時、一人の看護師が声を震わせながら問うて来た。

「あの……左う、では…」
「ああ…」

 ペンを置いて、彼女を見上げた。

がほしがっていたので」

 彼女は「ひっ」と喉を引きつらせて、逃げるように診察室を出た。





Du bist mein Lebenshalt.






「(ああ、ついに始まってしまった―――)」


 風がない。蒸し暑い。住民の苦痛の雄叫び。


 間に合わなかったのだ。


 すみません、


「観月!!」


 あの刑事の声。


 ああ、そうだ、赤澤。


 もう君との鬼ごっこは、終わったんだ。



「 Auf Wiedersehen. 」












-----------------------------------------------------------------------
またやってしまった「零〜月蝕の仮面〜」設定パロ。
正直、設定だけで本編はこんなシーンなんて一つもないのだが、果たしてこれはパロに入るのかどうなのか…。
取り敢えず、零キャラに当て嵌めていく私は自重した方がいいですね^q^
今回当て嵌めたキャラ。

灰原 耀(はいばら よう)(ラスボスの弟。CV櫻井さん←)→観月さん
亞夜子(あやこ)(残酷という言葉が一番似合う子←)→ヒロイン
灰原 朔夜(はいばら さくや)(ラスボス。耀のお姉さん)→観月さんのお姉さん
霧島 長四郎(きりしま ちょうしろう)(第3の主人公。CV小西さん←)→赤澤部長

亞夜子が超鬼畜で残酷な子供なので、必然的にグロい話に…。
ついでに観月さんにもヤンデレになってもらいました←
本編では全然ヤンデレではありません。シスコンではありますが。
詳しくはぜひ「月蝕の仮面」をプレイあれ!
…ホラーですが←

タイトルと最後は全てドイツ語。


Du bist mein Lebenshalt. →あなたは私の生きがいです。

Auf Wiedersehen. →さようなら。


発音は聞かないであげてください←
Witten by Yukino Enka.

-Powered by HTML DWARF-