さて、この季節がやってまいりました。
貴方は誰を選びますか?
Give me please?
「え!?」と意外そうに先を歩いていたが振り返り、私を見やった。
「、今年は誰もあげないつもりなの!?」
「う〜ん…どうだろう。でもやっぱり今の時期貰うと困るじゃない」
特に3年生の先輩達は目の前には受験が控えてある。目前に渡されては困ると思う。
「なら不二君とか金田君とかにはあげないの?」
「不公平な気がする」
「…そっか」
はそう言った後、また前を向いて歩き始めた。私もそれに習って歩き始める。
が驚くのも無理はない。以前までの私なら今頃と二人で、専門店を何件も巡って渡すチョコレートを吟味していた。
だけどたまたま知り合った裕太のお陰で男子テニス部のマネージャーと実に学校中の彼らのファンを敵に回すような位置に就いてから、私は変わったのだと思う。
ううん、変わった。それまで腰にまで届くほど伸ばしていた長い髪は部活中は邪魔だと思い、誰に言われるもなく自分でバッサリと切った。
急に変わった私を、を初め誘ってくれた裕太にだって目を大きくさせられた。
赤澤部長や木更津先輩には「そこまでしなくてもいい」と言われたけれど、やっぱりけじめはつけたかったから。
…そう言えば観月さんは何も言ってくれなかったけど、当時はそんなに気にしなかった。
そうして変わって今年初めてのバレンタイン。はこの日は以前の私に戻ると思っていたのか、私の返答に冒頭の驚きよう。そして今の状況。
ああして会話した後、二人して黙って街中を歩いて5分ぐらいだろうか。実際はもっと経っているのかもしれない。
ふと、が振り向いた。
「でも、本命だけなら別にいいんじゃない?」
「え…?」
「義理となるとレギュラー全員に渡す事になっちゃうけれど、本命なら普通は一人でしょ?」
「で、でも…」
「…気になる人、いるんでしょ?」
急に真剣な表情をされ、そして最後に言われたあの言葉に、私は顔が赤くなるのを感じて、思わず立ち止まってしまった。
も一緒に止まってくれる。
「………うん」
「…その人の為にも、あげないの?」
「だって…迷惑じゃ…」
「そんなわけないわよ!だってがあげるんだもの!!みんな喜んで受け取ってくれるよ!」
それに、告白のチャンスでしょ?と首を少し傾げて私を見上げてくる。
「だけど…」
だって私にはみたいにそんなに可愛くても美人でもないし、家事は苦手な方だし、それにいつもドジをやっているんだもの。
彼女はそれを聞くと、呆れたと大きめな嘆息をついた。
「自信持っていいよ!は可愛い!それに、家事は少し苦手な方が男にとっては可愛いのよ!」
「…少しじゃないもん」
「でも料理は好きなんでしょ?」
「……うん」
「ならいいじゃない!少しドジでも一生懸命に作ったの手作りチョコ、誰もまずいなんて言わないよ」
「う、ん……」
……
…………
………………
……………………
―――…………ん?
危うくの言葉を流しそうになった。目の前にいる彼女は満面な笑みを浮かべて私を見ていた。
「?どうかしたの?」
「…今、なんて…?」
「少しドジでも一生懸命に作ったの手作りチョコ、誰もまずいなんて言わないよ!」
「な、なんで手作りになってるの!?」
は何を言ってるの、と眉を顰めて私を見やった。
「本命は手作りでしょ?」
「ほ、本命だって市販のチョコも―――!」
「馬鹿ね、!市販じゃ所詮義理チョコにほんの少しの装飾品がついただけじゃない!」
それでいいじゃない!そう言おうとしたけれど、その前にがしっと腕を捕まれ、ずるずると引きずられていく。
「それに想いを伝えるにはやっぱり手作りが一番なの!!」
「!!」
「あたしも手伝うから!!さ、行こう!!!!」
そう言えばは一度言い出したら滅多な事がない限り曲げる事はなかった。
半ば諦めつつも、歩きにくいので彼女の手をそっと外しながら、大きなため息が出てしまった。
そうして迎えてしまった当日。
途中すれ違ったに小声で「頑張って告白してこい」と言われて、真っ赤になりながらも部室へ足を運ぶ。
この時間帯にくるのは私だけなので、大抵部室に行くと私が一番乗りだ。
だけど今日は違った。
いつもの少し錆びた音がするドアを開くと、そこには―――
「あ、観月さん!」
「あれ、裕太?」
「早いですね、木更津先輩」
「赤澤部長が来てるなんて…」